スガネタ。

 

 イメージ小説 「黄金の月」


「なあ、思ったんだけど」

「ん、何?」

「結婚……しようか」

僕の言葉に、彼女は眉をしかめた。何だこの反応は、と思って、僕も首を傾げる。

空は星で埋め尽くされて、月もないのに、奇妙に明るい、そんな夏の夜だった。

 

久し振りに生まれ故郷に帰ってきた。最初に断っておく。ここには家族は住んでいない。数年前、一族郎党、などというと大袈裟だが、僕の両親も祖父母も、このど田舎の村からやや都心の街に引っ越していた。祖父母と両親は、やや手狭な一戸建てに四人で暮らしている。子供達である僕とその兄弟達は、とっくの昔に独り立ちして、それぞれに別々の街で、各々好き勝手、とまではいかないが、自由にやっていた。要するに、生まれ故郷に戻る必要性が、今の僕には殆どなかった。そもそも家は、祖父の代からの分家になる。当時から、この田舎にいてもいなくてもいいような身の上だった。親類は、多少はいる。が、従兄妹やおじ、おばといった近親者ではなく、どこそこのだれそれが、祖父の従兄の孫で、というような話は聞くものの、離れて暮らしていれば、それはもう自分にとっては親類じゃないだろう、というレベルに遠い関係でしかない。まあ、狭い田舎の村なので、顔と名前くらいは知っているが。なので特別、僕が薄情だとか、そういうことはないと思う。思い出もあるから、時には懐かしくも思うけれど、しばしば尋ねられる近隣にも暮らしておらず、仮に夏冬の休暇に戻っても、気楽に留まれる場所もない。墓参りの類も、流石に曽祖父の家の墓くらいはあるが、僕の代まで来てしまうと殆ど他人の墓のようなもので、場所もろくに知らない。知っていたとしても、世話をする人間は他にいるし、下手に手出しをする事も憚られる。何しろ、うちの墓ではないのだ。

そんな訳で、時折懐かしく思う、子供の頃を過ごした田舎に来るのは、久々の事だった。以前に来たのはいつだったか……いや、ここ半年で、二度ほど、実はここに来ている。故郷恋しさ、というわけではない。単に所用だ。どんな用か?それを説明するには、ちょっと時間がかかる。とは言えぶっちゃけ、人に会いに来ている、のだが。

「あんた最近、疲れてるでしょ?いっぺん、こっちに来る?」

最初にそう言って僕を誘ったのは、そろそろ付き合い始めて六年にもなろうと言う彼女だった。要するにこの彼女が、その村の出身と言うか、未だに居住者である、というだけの話なのだが。

同郷の彼女と付き合い始めたきっかけは、とても些細な事だった。何年かぶりの小学校の同窓会に出たからだ。とは言えその辺りも、少々事情がややこしい。その頃彼女は、今現在僕の両親が暮らしている街に住んでいた。まだ学生だったから、下宿していた、とでも言うのか。

僕は当時、また別の所で、これまた同じ様に下宿していたのだが、帰省の途中で彼女に出くわして、久し振り、元気、今何してんの、とか言う世間話を経て、今親がどこそこに住んでて、と言った僕に、彼女が、凄い偶然、私今そこに住んでるよ、とか何とか返して……要するに、久々に会った同級生と話が合っただけ、だったのかもしれない。彼女と特別親しかったという訳でもなく、初恋の相手だった、とか、そんなこともなく、何だか流れで、別れ際に適当に連絡先を教え合って、そのうち、こじんまりとした同窓会を二人で繰り返すようになった。そんな間柄だった。ちなみに、彼女が未だに村に住んでいる理由は一つ。勤め先が村役場だからだ。彼女の家族も、殆どが僕の家族同様に、村を出て町に家を構えていた。彼女の家の場合は、家屋敷の老朽化と、やはり僕の家と同じ様に、子供もみんな独り立ちして、住む人間が減ったから、というような理由らしい。今は、あまり大きくない借家に一人で暮らしている。かなりボロいので色々手も入れているらしい。防犯的に大丈夫なのか、と尋ねたら、都会よりよっぽど色々緩いから平気、と、けろっとした顔で言っていた。勿論、それでも僕は心配なのだが。

 

「いきなり何、結婚?」

彼女が一人きりのこの家に来るのは、二度目だ。付き合って結構時間も経ってはいるが、会うのは大抵、僕の実家のある街だった。村には二人で出歩くようなスポットもないし、そうなってくればそれは当然で、彼女も何だかんだと用があって街まで良く出ていたので、なんの差し支えもないようだった。交通手段は主に自家用車。いや「主に」どころではない。それ以外はないと言ってもおかしくない。田舎というのはそういうものだ。交通機関などという文明の恩恵などこれっぽっちもない。民家もまばらで、国道沿いでもまともに街灯もない。夜は真っ暗闇だ。そして、住んでいるのは人間よりも、獣の類の方が多い。

そんな田舎の古民家の軒先で、僕は冷酒を舐めるようなペースで飲んでいた。傍らには野沢菜の漬物とするめの袋が無造作に置かれている。彼女は僕のそんな姿を呆れて見下ろしながら、わざとらしいくらいに大きな溜め息をついた。

「もう酔ってる?もしかして」

「酔ってないですよ、別に」

「どうだか」

自慢じゃないが、酒は弱い。弱いのに、僕はそれが大好きだった。いわゆる片思いというヤツだ。村には、ちょっと有名どころの造り酒屋がある。その造り酒屋が最近新しく、生酒の量り売りを始めた。ちなみに知り合いも何人か勤めている。ここへ来る前に、僕は意気揚々とその造り酒屋に立ち寄り、そこで売られている、いわゆる生原酒を、一晩で飲みきれる程度の量だけ購っていた。ちなみに、その造り酒屋で生原酒を買ってくるのも、二度目だ。前回も同様に、ここでこうして飲んでいた。まあ前回の件に関しては、他にも色々あったのだが。

「いいじゃん、結婚しよ」

酔っ払ってはいなかった。けれどどこかふわふわは、していた。人はそれを「酔っている」と言うのかも知れない。でもまあいいや、そんな風に思いながら、僕は空を見上げた。

「いいじゃん、って、そんなんでおヨメになんかなりませんよ」

「なんで?お前、俺以外にそーゆーアテ、あるのか?」

「……ないけど」

彼女は不貞腐れてそう言った。僕は笑って、ごろりと、縁側に寝そべった。真上に、少々怒っているような彼女の顔が見える。それに返すように笑うと、彼女はまた大きく溜め息をついた。

「……なんか、ちょっと哀しくなってきた」

「なんで?」

「あんた以外にそーゆーアテがないのが」

「なんで?俺のこと、スキじゃないのか?」

言ってから、ああこれは、酒の効果かな、などと、自分の事だというのに、暢気に思った。彼女は片手で顔を覆って、その隙間から僕を見下ろすと、すとん、と側に腰を下ろした。体を起こして、僕はその顔を覗き込む。

「何だよ。そんなにいやか?俺が」

「いやっていうより……なんか虚しい」

「……やっぱいやなんじゃねぇかよ」

僕はふくれっ面で彼女に詰め寄った。彼女はまた息をついて、疲れたように、

「ていうか、あたしも、軽く見られるようになっちゃったなー、って思えて」

「別に、軽くなんて思ってないぞ」

「でも別に、狂おしいほど愛してくれてもないじゃない?」

「何だ、お前。そーゆーのがいいのか?」

「あのね、結婚だ何だの前に、もっと言うことがあるんじゃないの?」

じろりと、彼女は僕を睨みつける。時々、こんな風に僕は彼女に睨まれる。理由は解らない。なので素直に、尋ね返す事にした。

「もっと?何だそりゃ」

「……もういい。あたしじゃなくて、あんたの方がやっぱり、どーでもいーってことよね」

「……だから、何がだよ」

あーあ、と彼女は大きく溜め息をついた。そして、

「気が合って一緒にいて楽で、ってだけで、一生かけられるほどの相手じゃない、ってことよ、あんたは。なんか物凄く、虚しくなってきた」

「だから……何がだよ?」

言われている言葉の意味が解らず、僕は尋ね返す。彼女は僕から目を逸らし、

「いいから。あんたはここでだらだら、気がすむまで飲んでなさいよ。って言うか、今晩限りにしていただけます?人んちに来て、こーやって、飲めないくせにグダグダ飲むの」

何やら、機嫌を損ねたらしい。僕は目をしばたたかせて、

「……何、怒ってんだよ」

「フツー怒るでしょう?あんたみたいなの」

「てか、虚しいって何だよ?俺といると、虚しくなるのか?なんで?」

問いかけに、彼女は答えなかった。不貞腐れて、と言うか、すねた様子で、何も言わずに立ち上がる。

「っておい、ちょっと待て……」

「この鈍感ばか」

言い残して、彼女は歩き去っていく。僕は縁側で這いつくばる様な格好のまま、そんな彼女をただ見送った。そして小さく舌打ちして、またその場に、ごろりと横になる。

「……何だよ。人が折角……てか別にいいじゃねーか……他にアテもねーんだし、お互いに」

言ってみて、僕は胸の中だけでそれを否定した。行くあてが他にないだとか、一緒にいる相手が他にいないだとか、そんな理由で言っている訳ではないのは、僕には解っていた。前にここに来た時にも、同じ様に思ったのだ。ここにいるこの相手と、一生二人で生きて行きたいと。前にきた時には言わなかった。いや、言おうにも、上手く言えなかっただけかもしれない。

 

前回の来訪は「呼ばれたから」だった。その時の僕は、何だか奇妙に疲れていた。自分に任された、大きすぎず小さすぎもしない企画で躓いて、やっとの事でそれをクリアして、気がつくとくたくたになっていた。それまででも、月に二、三度、彼女とは会っていた。殆どが、彼女が街に出てくる格好で、流行の観光スポットやショッピングモールや、繁華街や、色んなところをうろついて過ごした。勿論僕の部屋で過ごすこともあったけれど、どこに行っても何をしていても、何だか落ち着かないことが良くあった。疲れていたのだろう。些細な事でいらついて、言葉を交わす度に溜め息をついていた。そんな僕を見て、彼女は言ったのだ。今度の休み、思いっきりゆっくりしに来ないか、と。昨今の若者のデートで、思いっきりゆっくり、というのも変な話だとは思ったが、件の造り酒屋のことも気になっていたし、何よりも懐かしい故郷なのだし、僕は彼女の提案に素直に従った。

思いっきり、ゆっくり。丸一週間。残っていた有給を、ともすれば会社へのあてつけか八つ当たりのように使って、僕は彼女の家で、思い切り、ゆっくりした。相手は、土日もしくは長期休暇にでも、と思っていたらしいが、それでも僕を追い帰そうとはしなかった。私は仕事があるから、それでも構わないなら、好きなだけいたらいい、どの道自分一人なのだから、とも言われた。

それで一週間、僕は彼女の家に滞在した。思い切り、ゆっくり。目覚ましに起こされることもなく、眠くなるまで眠らず、昼間でも、眠気を催せば眠った。彼女がいない間は、自分で食事の支度をし、台所を片付けてみたり、洗濯をしたり、掃除をしたり、時には何もする気になれず、ひたすら家の周りの景色を眺めるだけで時を過ごす、そんな風に。

彼女は、いつまでも帰らない僕に呆れながら、それでも笑っていた。食事の支度をしてやると、驚いた顔で、それでも喜んでくれた。味の評価はあやふやだったが、不満は聞こえてこなかった。そして、来て良かったでしょう、と何度も僕に尋ねてきた。僕がそれに、どうしてかと聞き返すと、彼女はどこか嬉しそうに言った。

「だって、顔つきが違うもの。この間よりずっと、生き生きしてる」

それから、良かった、と小さく彼女は言った。僕は、自分が楽になっていく事を感じていない訳でもなかったのに、そうなのか、と、何だか他人事のように思って、それでも、それがとても嬉しかった。

何年かぶりでゆっくりと滞在する故郷は、彼女の家で過ごしている、という、少々奇妙な形ではあったけれど、それでも、疲れた僕を癒すには充分だった。そもそも彼女のその提案も、そのためだったのだろうし、結果、僕はすっかり癒されて、元よりもいい状態にすらなっていた。

 

そうやって、彼女と、この田舎とに癒された僕が、その、六年もの間に渡って付き合っている相手との結婚を考えるのに、どこに不自然があるのだろうか。こんな風に癒された事も、こんな風に癒してくれる相手と過ごした事も、それまでの僕にはなかった。確かに、他にあてがないのは否めないかもしれない。けれどだからと言って、折角の申し出を、虚しいと言われてしまうのは、あんまりではないだろうか。そもそも、ここに呼んだのは、前回に限るが、向こうなのだ。それも、疲れ切った僕を癒すために、だ。だというのに、あの返事はないだろう。しかも「今晩限りにしてくれ」だと?ここでこうして過ごすことを。思って、僕はため息をついた。

縁側に寝転んだまま、ちびちび飲んでいた酒は、いつか温く変わっていた。味のなくなったようなするめを噛みながら、僕は少しの怒りと哀しさと、それから、何が悪いのかという疑問に苛まれていた。くちゃくちゃと口の中で大きな音を立てて、時々、ふやけたするめを口から出しては、猪口の酒を舐める。俺の何がいけないんだ、ばーろーめ、どの道お前だって今更、誰か別の相手を探せる訳でもなかろうに。考えていると腹が立ってきた。酔っているようだ。思っているとゆっくりと足音が近付いて、彼女の顔が真上から、僕を覗いた。

「お風呂は?って……そんなべろべろじゃ、溺れちゃうか」

「ばーろー、俺は酔ってねぇぞ」

「するめが口から外れるわよ、そんな格好で食べてると」

呆れた言葉の後、彼女は溜め息をついた。僕はむっとして体を起こし、そのまま、強く彼女を睨みつける。睨まれた彼女は慄いて、

「な……何よ」

「何もかにもねぇだろ。なんで虚しくなんかなるんだよ」

「は?……ああ、さっきの……」

目をしばたたかせると、彼女はそう言って、意地悪そうににやりと口許をゆがめた。そして、

「なんでかしらねぇ?色々と、甲斐のない相手に言われたからじゃない?」

「甲斐性だぁ?ふざけんな、俺だってこれでも一応、会社員だぞ!」

「ま、そっちの甲斐も期待はしてないけど」

そう言って彼女は僕の隣に腰掛ける。僕は、間近に降りてきたその顔をまだ睨んでいた。彼女はくすくす笑って、

「何怒ってんのよ、ガキみたいな顔して」

「うるせぇ。成人男子舐めんなよ」

「はいはい。舐めてません舐めてません」

子供をいなすように、軽い口調で彼女は言った。僕は不貞腐れて、猪口に酒を注ぎ、それをぐっと飲んだ。温い生原酒はどろりと濃く、アルコールは温度よりもっと熱く感じた。飲み始めは冷たくされて、口当たりも良かったはずなのに、何だこのまずさは。思って、僕はますます眉をしかめる。彼女はそれもおかしかったのか、またくすくすと笑った。僕はそれを盗み見るようにちらりと見て、低い声で尋ねる。

「何がおかしいんだよ」

「ううん、何も。ただ、可愛いなぁって思って」

「可愛いって、何だよ」

「だって、可愛いわよ。大して飲めもしないくせに、やけっぱちになって飲んだりして。それで不貞腐れて。子供みたい」

彼女は笑っていた。僕は、子供扱いが気に入らず、黙ってまた一口酒を口に運ぶ。さっきの一杯と変わらず、あまり美味しくない。見ていてそれが解ったのか、彼女はまた笑って、

「何やってんのよ。飲みたくないならやめたらいいでしょ?本当に、子供なんだから……」

「俺は子供じゃないぞ。一端に社会人だ」

「……はいはい。だったらムキにならない」

「てか……なんで俺じゃダメなんだ?」

気がつくと、その問いかけがまた上っていた。彼女は、唐突に変わった僕の言葉に目を丸くさせ、

「何が?」

「だから……なんでダメなんだ、つって、聞いてんだよ」

僕は彼女を睨んでいた。彼女はあっけにとられた顔をして、けれどすぐまた、何がおかしいのか声を立てて笑った。また子ども扱いらしい。思って、僕は思わず声を荒げた。

「てめ、笑うなよ!俺は本気でっ……」

「だって、おかしいんだもん!酔っ払いのくせに、何本気になってんのよ?」

「俺は酔ってない、正気だ!」

「何言ってんの、真っ赤な顔して、目だって座ってる……」

「正気だ!ふざけてんのはそっちだろ!俺がさっき、何言ったか覚えてんのか、あ?」

「だからそれも、テキトーに言ったんでしょ?大体、なんでいきなりそういう話になるのよ?

「うるせー、いいじゃねぇか、したいんだから。なんか文句あるか、あ?」

「大有りよ、この酔っ払い」

彼女はもう、笑っていなかった。怒ったような、困ったような、何だか腑に落ちない表情で、言葉と共に僕の額を小突いた。小突かれて、僕は体をふらつかせ、床に肩肘をつく格好になる。呆れの吐息が聞こえてきた。彼女は僕から目を逸らし、星だけが輝く、奇妙に明るい空を見上げた。

「本当に、もう……何にも解ってないんだから……」

「……解ってないって、何がだよ」

「色々よ」

「色々って……だから何だよ」

会話が噛み合わない。彼女の言うように、僕は強か酔っ払っているのかもしれなかった。もしかしたら酒が回っていなければ、彼女の言いたいことが解るのだろうか。いや、でも、素面でいたって、解らないことは大いにある。解ろうと努力すれば、酔っていたって何だって、解る筈だ。思いながら、僕は問いかけの答えを待った。彼女は、しばらく何も言わなかった。ただ空を眺めていて、そして唐突に、こんな風に言った。

「夏でも、晴れてる夜は冷えるから。ちゃんと布団被って寝なさいよ」

「……おい……」

「あんたが明日の朝、そこで冷たくなってるのなんて、見たくもないわ」

冷たいを通り越して、酷い言葉を残して彼女が立ち去ろうとする。構わず、僕はそれを呼び止めた。

「ちょっと待てよ、お前っ……」

「さーお風呂お風呂。こんな酔っ払いに付き合ってたら、いつまでたっても寝られやしない」

「待てっつってんだろ、このばか!」

思わず、怒鳴ってしまった。彼女は歩みを止めて振り返り、

「ちょっと、誰がばかよ」

「ばかはばかだろ。他にどう言やいいんだ?」

僕はまた体を起こして、こちらを向いた彼女を睨んだ。少し離れた場所から、彼女も僕を睨んでいた。僕は立ち上がって、ふらつきながら彼女に歩み寄る。そして、

「お前なんかばかじゃねーか、冷てーしよ?」

「あたしのどこがばかなのよ?それに冷たいって?冷たい人間が、あんたの心配なんてすると思ってんの?」

すぐ側まで顔を近づけて、僕は彼女を睨む。彼女は鼻先で笑いながら言って、負けじと僕を睨み返した。そのまま、僕は黙って、その瞳を見詰めていた。ふらつく体を支えるのも兼ねて、彼女の肩に手をかける。そして、

「なんでだよ」

「……何が、なんでなのよ」

「なんで俺じゃダメなんだよ、っつーか……お前が呼んだから来たんだろ?」

「……何の話よ、だから」

酔っ払いに絡まれた体の彼女は、さもいやそうな顔で僕に聞き返す。訳の解らないことを口走っているのは、傍目から見れば明らかだろう。けれど僕の中では、それは、訳の解らない理不尽な事ではなかった。真剣で、真面目で、とても大切な事なのだ。だから僕は、くどいほどに繰り返して、それを尋ねた。

「なんで俺が、結婚しよ、っつーのが、虚しいんだよ?」

「……もういいわよ、その話は」

彼女はそう言って、視線を僕から逸らした。肩に手をかけたまま、僕はそのまま、彼女にしなだれかかる。近くにいたいと思ったのもそうだが、酔いが回っていて、上手く体を支えられないせいでもあった。耳元に顔を寄せるようにして、僕は言葉を重ねた。

「なんで俺じゃダメなんだよ……俺はお前がいいっつってんだろ?」

酔った勢いで、変なことを口走っていた。そのまま、僕はその体に寄りかかる。重い、力の入らない体がのしかかって、彼女は驚いて声を上げた。

「ちょ、ちょっとあんた……しっかりしなさいよ」

「うるせー、俺ぁ正気だ、酔ってなんかねー」

「しっかり酔っ払ってるわよ!あーもー、飲めもしないくせに飲むから……」

「お前は俺の側にいろ。でなきゃもっと飲んで、本気で酔っ払って、暴れてやるぞー」

言いながら、僕は笑い出していた。彼女は僕を支えて、僕の下で困惑していた。その様子に僕は声を立てて笑う。そしてそのまま、僕はそこにある彼女の体に、まともに体重をかけるように抱きついた。ぐらりと、一瞬彼女と、僕の体とが揺らぐ。

「ちょ……ちょっと本当に、いい加減にしなさいよ!重いっ……」

「うるせー、黙って聞ーてりゃ、人を酔っ払いだとかばかだとかガキだとか、好き放題言いやがって、このやろー」

「好き放題してんのはあんたでしょ!人んちに来て勝手に飲んで、酔っ払って……」

うひゃひゃひゃ、と、僕の笑う声がやけに大きく響く。ぐらりとまた体がぐらついて、ついに僕らはその場所に崩れた。床に手を着く、というより、半ば彼女を押し倒したような格好で、それでも僕は笑っていた。僕の下で、床に転んだ格好になった彼女は眉をしかめ、さもいやそうな顔で僕を見上げ、睨んでいる。見返して、僕は笑うのをやめた。それからゆっくりと、黙ったまま、彼女の上から退く。

「……ごめん」

今まで、一体何が楽しくて、あんなに笑っていたのか。そんなことさえ僕は思った。彼女は廊下に座る格好になって、僕からぷいと目を逸らし、

「……あたしは、お風呂がすんだら寝るから。あんたも、適当なところで切り上げて……ちゃんと布団着て寝るのよ?」

そう言って、僕を見ようとしないまま、立ち上がる。その姿を見送りながら、僕は彼女に呼びかける。

「なぁ」

「……何」

「俺と結婚してくれよ」

言葉は、他に出なかった。彼女は聞くなり、その場で大きな溜め息をつく。そして苛立たしげに僕へと振り返ると、

「そういうのは、せめてシラフの時に言って欲しいんだけど」

「いいじゃん、減るもんじゃなし」

「酔っぱらいの科白に、減るほど価値なんかないわよ」

それはあまりにも冷たい言われ方だ、と僕は思った。彼女はまた溜め息をついて、それから、何故か泣きそうな目で、僕を見下ろした。

「……何だよ」

「何でもない」

「何でもないなら、そんな顔すんなよ」

「こんなことでいちいち動揺して、ばかみたいって思っただけ」

「何がだよ」

「っ……だからっ……」

まただ。会話がかみ合わない。彼女はいらついて、そして哀しそうだった。僕はその場所から歩き去ろうとしない、目を逸らした彼女を見上げていた。言葉は出てこない。彼女の言いたいことなど解らないし、解ったところで、きっと出来ることなどないだろう。それでも、別に哀しんだり泣いたりする事なんて、何もないはずだと、確信に近い気持ちで僕は思っていた。僕達はしばらく、そのまま動かなかった。彼女は唇を噛んで、軽く目を伏せた。泣きそうだと思った次の瞬間、僕は言っていた。

「何泣いてんだよ」

「別に……泣いてないわよ」

「じゃあ、何怒ってんだよ」

「怒ってもない……」

「俺の何がそんなにいやなんだよ?」

質問は、結局最初に戻っていた。彼女は、怒っていないと言いながらも、険しい目で、また僕を睨んだ。僕は座ったまま、そんな彼女を睨み返す。

「……俺の、どこがそんなに……」

「……いやじゃないわよ、何にも」

膨れて、彼女はそっぽを向いた。僕は眉をしかめて、少し声を大きくして、また尋ねる。

「だったら、なんで……」

「だったら聞くけど、どうしていきなりそんなこと言い出すのよ?あたしは、あんたの何?」

その問いかけは、僕の声よりもずっと強かった。僕は目を丸くさせて、

「……は?」

「ほらみなさいよ……答えられないくせに」

いや、そういう意味ではなくて、質問の意図するところが解らなくて、固まったのだが。思いながら、僕はそこにいる彼女を見詰めた。顔を真っ赤にさせて、彼女はその場所で、僕と同じ様に固まっていた。初めて見る、多分、恥じていると思われるその様子に、僕は驚いていた。幼なじみみたいなものだったから、僕達の間柄は、初めからどこかあっさりとしていた。付き合い始めの、何と言うか、くすぐったいような甘酸っぱいような、あの感覚も、あったのかどうか、というほどしかなく、確かに色んな彼女を見てきて、知ってはいたつもりだったのに、こんな風に恥らう様子など、今まで見たことがなかった。最初から、言ってしまえばこんな風に、気兼ねなく、格好を付けることもなく、そして、ありていの恋人同士の様に、些細な事で別れる様な不安もなく、ずっと過ごしてきた。お互い、そういうのもどちらかといえば苦手で、だからそれでいいと、僕としては思っていた。名前を呼んで、振り返って、こちらの言うことに何か返してくれるだけで。こうやってずっと側にいてくれたら、それでいいと思っていた。相手も当然、それを、望むとまでは行かずとも、受け入れてくれるはずだと、心のどこかで信じ込んでいた。彼女が、自分にとって何なのか、なんて、考えた事すらない。いや、考えてみろと言われても、今更、何と言っていいものかも解らない。だから、僕はこう答えた。

「お前は、お前じゃん」

「……ああ、そう」

「他に、どう言えばいいんだよ、だったら」

僕はゆっくりと立ち上がり、少し低いその顔を見下ろした。彼女はそっぽを向いたまま、顔を赤く染めていた。泣き出しそうに見えるのは、気のせいだろうか。思いながら、僕はその肩に腕を乗せ、さっきと同じ様に、僅かに寄りかかる。

「ちょっ……ちょっと……」

驚いたように、その眼がこちらを向いた。僕はその、少し脅えた目を見つめながら、ゆっくりと顔を近づける。

「やっ……何、ふざけて……」

「他に、どう言えばいいんだ?一生俺の側にいろ、とか、そういうのか?」

しっかり聞こえるように、耳の側で言葉を紡ぐ。彼女は僕から逃れるように、その身をよじって、

「だから、そういうのはシラフの時に……」

もう一度、さっきと同じ様に、僕は彼女にのしかかる。立っていられないのだろうか。でも、まあいいや。跳ね除けられたら転ぶだろうな。でも、死ぬ訳じゃない。そんなことを遠くに考えながら、詰め寄るように、責めるように、僕は言った。

「お前が言いたいことなんて、全然わかんねー。けど、そんな風に言われるのも、全然意味わかんねーし」

「……あ、あんたね……」

呆れた声が聞こえる。また、何か言い返されるのだろうか。でもまあいいや。思いながら、僕は勝手に話し続けた。彼女の言い分など、聞く気はなかった。

「前来た時に、思ったんだ……お前が、良かった、って、言った時から……ずーっと思ってた」

その体に腕を回して、もう一度抱きしめる。抱くと言うよりもたれる、と言う方が正しいかもしれない。目を閉じて、腕の中に彼女がいることを確かめながら、僕は言った。

「あん時、満月で……お前、何て言ったか覚えてるか?」

「……あたし?」

腕の中で、彼女が驚いたような声を立てる。僕は何故かそれに笑って、

「月が綺麗でしょう、って……そう言ったんだ。そんで……」

 

「月が綺麗でしょう?あんたにこういうお月様、見せたかったの」

 

その時、彼女はそう言った。

僕はその日、一日この家にいた。何をするでもなく時を過ごして、三日目、だっただろうか。彼女の帰宅を待ちながら、一人、縁に出て、今夜の様にちびちびと酒を飲んでいた。縁に出ていたのは、最初は、彼女を迎えるためだった。迎えに出ようと思った理由は、単に退屈だったからだ。一人でごろごろしているのにも飽きていたし、他に理由はない。月は、たまたま満月で、南向きの縁に出ていると、昇るところから見えていただけで、単に偶然でしかなかった。でもそれでも、その後の彼女の言葉で、それは特別なものになったのだ。

「本当に、綺麗だと思ったんだ……月なんか、昔っから見てるし、なんか特別変わってもねぇし……だけど、なんか凄く……嬉しかったんだ」

僕はそう言うと、その場に座り込んだ。抱きしめられていた彼女も、同時にそこに座る。腕の中で、彼女は黙っていた。僕はそれを見ずに、今夜の、星で埋め尽くされた夜の空を眺めた。そして言った。

「今の空も……凄く綺麗だ……やっぱ特別、何にも変わってねーけど……」

「……だから、何?」

少しだけ震える声で彼女は言った。僕はそのまま、淡々と答えた。

「こーゆーのを、お前とずーっと見てたい……てか……お前が疲れたりしんどかったりする時に、俺も……お前がここに呼んでくれたみたいに、してやりたいって……思ったんだ」

上手く言葉にはならない。酒が入っているからかもしれない。思いながら、僕は腕を解いて、そこにいる彼女を見た。彼女は俯いて、少し脅えた様子で、そのまま何も言わなかった。黙ったまま、僕はその手をとった。そっと握って、また言った。

「俺と、結婚してくれ」

答えは、返ってこない。だからもう一度、僕はそれを繰り返した。

「俺と、結婚してくれ」

彼女は何も言わなかった。ただ泣き出しそうな目で、俯いて、小さく震えている。その手を捕まえたまま、僕は答えを待っていた。もし一晩中、彼女が何も言わないのなら、それでも待っていよう、そんな気にさえなった。

「……見せたかったの」

小さく、彼女は言った。何をだろうと思いながら、僕は、続く言葉を黙って待った。

「お月様も、夜の星も……花が咲いたら咲いたで、夕焼けが綺麗なら、それも……」

「……うん」

掴んでいた手の、指を絡める。彼女は下を向いたまま、小さな声で続けた。

「見せたいと思ったら……凄く、会いたくなって……でも別に、珍しいものじゃないし……ここにいたら、いつでも見られるようなもんだし……だけど……」

言いながら、彼女が少しだけ苦笑する。そして、

「……一緒に見られたらいいのに、って、ずっと思ってた……ずっとずっと……ずーっと、二人で見ていられたらいいのに、って……」

彼女が顔を上げる。僕はそっと手を伸ばして、その額に触れた。撫でるようにすると、くしゃりとその顔が歪む。笑いながら、彼女はぽろぽろと涙をこぼし始める。そして、

「……良かった、見せることが出来て。凄く、綺麗でしょ?」

「……泣くなよ」

答えずに、僕は言葉を返した。彼女はえへへ、と笑うと、空いた手でその涙を拭った。それでも涙は零れて、音もなくその頬を濡らす。黙ったまま、僕はその涙を拭った。温かい雫で指が濡れる。彼女は泣きながら、それでも嬉しそうにずっと笑っていた。笑いながら、ささやかな声で、彼女は言った。

「……大好き」

言葉に、僕は少し驚く。そして同時に、奇妙な敗北感と、言い知れぬ、気恥ずかしさに襲われた。照れくさそうに彼女は笑い、上目遣いで僕を見る。目を逸らすと、彼女はくすくすと声を漏らし、それから、少し意地悪く言った。

「ほら、あたしは言ったわよ。そっちは?」

「……酔っぱらいの科白に、減るほどの価値なんてねぇんだろ?」

僕はそっぽを向いたまま、そんな風に言葉を濁す。彼女は笑いながら、それでも意地悪く、更に言った。

「じゃあさっきのも、意味なしにカウントしていいんだ?」

「……っておい、お前っ……」

思い返せば、というべきか。僕はその気持ちを、口に出して言ったことが滅多になかった。いや、もしかしたら皆無かもしれない。彼女の不機嫌、と言うか、怒りや虚しさの理由も、そこにあるのだろう。と言うか、そんなことはそうも頻繁に、口に出して言えることか?大体、解っているのだし、必要もないだろうに。それでも、意を決して、でもないが、僕が今夜言ったことを、全部なかったことにしようというのか。思いながら、僕は彼女を睨む。彼女はニヤニヤと、意地の悪い顔で笑って、僕をいたぶるように言った。

「ちゃんと言ってよ。あたしは……あんたの何?」

僕は黙り込んで、何も言えなかった。そっぽを向いて、振り返ることも出来ず、やり込められている事に悔しさを感じながら、ただ、沈黙する。

「……ちょっと、何も言わない気?」

痺れを切らせたように、彼女が問いを重ねる。僕は彼女を見ないまま、

「……だって、お前は、お前じゃん」

「それじゃ答えになってないでしょ」

「……って、だったら、どう言やいいんだよ」

半ば敗北を認めているというのに、彼女は許してくれそうになかった。くすくすと、勝者である彼女は楽しげに笑って、また意地悪く言葉を返す。

「思ってる事を素直に言えばいいだけよ」

「思ってる事、って……」

「例えば……愛してる、とか」

その科白の後、きゃー、と小さく、彼女が嬌声を上げる。僕はうんざりしながら、それでも、言うべき何かを探して、それから言った。

「一生……俺の側に、いてくれ」

「……それだけ?」

「っ……だからっ……」

揶揄い口調で、彼女が何かを要求する。これ以上言わなくても、解っていそうなものなのに。それとも、そんなにこの口に、その一言を言わせたいのか。僕は思って嘆息した。ニヤニヤと、ずっと彼女は笑っている。僕は泣きたい気分になって、思わず懇願するように言った。

「勘弁してくれよ……俺、そういうの苦手なんだよ……」

「あらあら、しょうがないわねぇ」

彼女はわざとらしくそう言うと、僕から顔を背け、満天に星の輝く、濃紺の夜空を見やる。そしてくすくすと、少女のように笑って、

「星、綺麗でしょ?」

「……ああ」

「一緒に見られて……良かった」

「……うん」

言いながら、ずっと彼女は笑っていた。僕も、頬が緩むのを感じながら、そんな彼女の背中に、聞き取れるかどうかの小さな声で、言った。

「……愛してるよ」

直後、彼女が振り返る。その寸前、僕はまたそっぽを向いていた。アルコールではない別の要因で、全身が熱くなる。顔も、きっと真っ赤になっている事だろう。だから言ったんだ、苦手だ、勘弁してくれ、と。またこれで、彼女に揶揄われて、苛められることになるのだろう。何度でも言えとせがまれて、僕はその度にうんざりして、言わなければ良かったと思うに違いない。後悔の念に苛まれながら、僕はしばしそのまま、彼女の次の反応を待った。驚いたのか、それとも、拍子抜けでもしたか。彼女は、振り返ったまま固まっていた。恐る恐る、僕は彼女を盗み見る。しばしの沈黙、そして。

「知ってるわよ、ばか」

「……何だよ、それ」

彼女は極上の笑顔でそこにいた。返された言葉に、僕は思わず眉をしかめる。人がせっかく、死ぬほどの思いで勇気を出して言ってやったのに、何だこの反応は。思っていると彼女は、さも嬉しそうに声を立てて笑った。そして、

「だから……ずっと側にいてあげる。死ぬまで、ずーっと。どう?嬉しい?」

「……調子に乗るなよ、このやろー」

僕はそっぽを向いて、また全身真っ赤になりながら、ようやくそれだけ言い返した。彼女はまた笑って、そっぽを向いたままの僕に抱きつく。抱き返しもせず、僕はただそこに座っていた。彼女はぎゅうぎゅうと僕を何度も抱きしめて、やたらと楽しげな声で、はしゃぐように言った。

「この先一生、絶対に離れない!だからもう一回、さっきの科白、言って!」

「……お前、いつの間に飲んだんだ?」

その豹変振りに思わず僕が問い返す。彼女はそれでも笑いながら、

「酔ってなんかないわよ、失礼しちゃう。でもいいわ、今日だけは許してあげる」

そう言って僕の体を離した。僕はその様子を見て、笑いながら、もう一度、星で埋め尽くされた夜空を見上げた。

 

ぼくの未来に 光などなくても

誰かがぼくのことを どこかでわらっていても

君のあしたが みにくくゆがんでも

ぼくらが二度と 純粋を手に入れられなくても

 

夜空に光る 黄金の月などなくても

 

 

自分ツッコミ・そんな訳で唐突に書きたくなって書き始めて正味三日(またか)の「黄金の月」でした……なんかこんなオチでいいのかと思いますが、てかもー「書きたいところだけかけたら後はやっつけ」……いやでもスキですよ、この歌。毎度の如く色々と反省点だらけですが、でもこの歌の流れであんまり酷い話も作れないよなーとか、何で今までこれを書かなかったのかなーとか、やっぱりその一言に尽きるのかこの手のネタは、とか……フガフガ……まあ多くは語るまい……しかし久し振りにエンドレスで聞いてると、この歌って凄くいい歌すぎて、スガシカオ楽曲とは思えな……げふげふ……スガさんの取っ掛かりをこの曲にすると痛い目に会う代表作のようないい歌だよね!!(待て)次はいつ何がやれるか解りませんが……てか短いネタこそこーゆースガ楽曲をやるべきかもなー……あーしかし、今更読み返すと凄い変な構成……激しく反省……。

 

前のページ

目次

次のページ

 

Last updated: 2009/01/29

 

inserted by FC2 system